カワイイ [kawaii]
これほど汎用性が高く、また、
それゆえ粗雑に扱われている形容詞があるだろうか。
我々は相貌の整った女性を、「カワイイ」と賛美する。
気に入りの雑貨やアクセサリーを、「カワイイ」
と好んで傍に置いたり身に付けたりする。しかし、
それだけではない。その言葉は時として、
誰かの小さな失敗をやんわりと許し、
あるいは受け入れる空気を作るためにも使われる。例えば、
誰かが転ぶ。「ドジでカワイイ」。もう、対象はなんだっていい。
その言葉は、とにかくプラスのイメージをまとっている。
大切なのはそれだけだ。それさえ分かっていればあとはもう、
どうだっていいのである。どんな場面でも使いやすい。
言われて悪い気のする人も居ない。だから、溢れかえる。
安くてピカピカした、ニセモノの宝石のように。
そんな、
もはや辞書で確認することのできる意味以上の含みを持ち、
我々の社会に氾濫しており、また言い方は悪いが「低級」
に堕ちてしまった語句について、
今さら解説が設けられているのには驚いた。それも、
国語辞典とはまったく違った観点から。
読んでみると、どうやら「カワイイ」
はアニメやマンガ等のいわゆるオタク・
カルチャーを指す語句として、
世界的に認知されているというのである。まさか「カワイイ」が、
日本の外にまで飛び出しているなんて……(しかし「
テキスタイル&ファッション」
のカテゴリにこの語句が登場するところから、
ファッションはどうした? 情報源はどこ? 確かなのか? と問いたくなる嫌いはある)。もちろん、ファッションにおける「
カワイイ」についても申し訳程度には言及されている。
ロリータや、
原宿系のガーリーな服装を指す語句として用いるのが正解らしい。
なんだかこの解説、現代を生きる我々若者にぐっと寄り添い、
近いところまで迫ってきている感覚があり、
私はそのことに驚いてしまった。だって、原宿系なんて言葉が、
なんの説明もなく普通に書いてあるのだ。
「カワイイ」はもっともっと深く掘り下げることのできる語句で、
下手をすればこのテーマで論文が一本書けそうなくらいだが、
この事典ではあっけないくらいにあっさりと、
たったこれだけのことが解説されている。ああ、ここでもまた、
この形容詞は粗雑に扱われている。そう感じざるを得なかった。
しかし世界的にはこの語句は、
我が国とはまた違った視点で認知されているという点は知らなかっ
た。これは面白い。「カワイイ」はもっと、
世界的な視野で研究されるべき、様々な可能性のある語句だ。
そのあたりを突き詰めて、調べてみたい気持ちになってきた。
このように、「カワイイ」に対する私の考えは、
ほんの少しではあるが、一歩前進したと思う。