高校時代の映画レビュー

図書委員が選ぶ、絶対に観ておくべき映画

ウェイキング・ライフ
覚めない夢を延々と彷徨う男の話です。夢から覚めたと思ったらまた夢、その夢から覚めたと思ったらまた夢、現実に戻りたいけどそもそも現実って何だっけ?ていうか俺って誰だっけ?そんな感じの静かな恐怖が淡々と描かれています。アニメーション映画なのですが手法が独特で、まず全編を役者達に演じさせ、その後彼らの動きをトレースしてアニメーションに落とし込んでいくという作業で作られています。ちょっと説明しにくいのですが、背景から人間から、とにかく全てのオブジェクトの輪郭が不安定にわやわや動きまくる摩訶不思議な映像になっています。くるくる変わる場面、人、景色、色はまさに夢の中そのもの。ただし物語の軸が見えてくるのが後半に差し掛かってからなので、それまでは意味不明な上に大変つまらないです。宿題でもしながらなんとか最後まで頑張りましょう。終盤は結構ぞっとする展開になっていて面白いです。最後まで観た後もう一度始めから観ると新たな発見がある類の映画です。

ワンダフル・ラヴ
変態村という映画のDVDの特典映像で見ることができる短編です。本当に短くてすぐ終わってしまうのですが短いながらも、というか短いからこそ、わくわくするような映像体験ができるのでわたしは表題作の変態村よりもこちらのほうがだいぶ好きです。
あらすじはというと、主人公の女がある日うっかり初対面の男を殺してしまってその死体と同棲を始めるというものです。物語自体はチープなのですが全編通して異様にわくわくする映画です。
死体と一緒にモーニングコーヒーとか死体と一緒にバスタイムとかいうシーンが強烈でシュールなのは言わずもがな、映画導入部、女がアパルトマンに帰宅するというだけのシーンがあんなにかっこよく撮ってあるのはどういうことなのでしょう。これはもう見ていただかないことにはわからないと思います。全てのシーンが悪趣味な美しさに溢れている鮮烈な映画です。あとは登場人物全員ちょっとずつ頭がおかしいというのも大変にわたしの好みでした。

追悼のざわめき
登場人物達が緩やかに狂っていく様を描いたモノクロ映画。殺人鬼とか近親愛とか血の海とか奇形とか●●(自主規制)とかそんなのばっかり出てくるのですが、それらがとても静かに無理なく淡々と描かれているので退廃的で美しい印象すら受けてしまう作品です。けっこうめちゃくちゃやってるのですがその手のカルト映画にありがちなギラギラとうるさく主張し過ぎるテイストがなく、鑑賞後はそっと突き放すような寂寥感にただただ包まれます。こういうのってわりと日本映画特有な気がします。分類としてはイメージ群をコラージュした映画(デイヴィット・リンチとか寺山修司とか)に入るのだと思いますが、それにしては芯の通ったストーリーがきちんとあるので解釈が不可能ということもありませんでした。でもあらすじをあれこれ説明するような類の映画でもないと思うので詳細は省きます。わたしは殺人鬼が夜の屋上でマネキンとダンスするシーンがとってもお気に入りです。

セブンス・コンチネント
ある一家が移住を決意するまでの四年間を描いた作品で、とにかく最悪な気分になりたい人はこれを観ればもう一発です。終盤からラストにかけて、体験したことのないような強烈な絶望が見る者を容赦なく叩きのめす映画です。あれほど憂鬱な映像ってちょっと他ではあまりお目にかかれないので一見の価値ありです。
あまりネタバレしたくないのでもやもやした解説しか出来ないのですが、この作品には「理由」が一切描かれていない。それがこんなにも深い絶望を生み出す要因なんだと思います。本や映画の文法上理由と出来事(或いは原因と結果)はセットになっているものですが、この作品は理由を意図的に省いてある。鑑賞する者の想像に全面的に委ねてあるのです。すると当然ながら「なぜこうなってしまったの?」「他に選択肢はなかったの?」という疑問への解答がどこからも得られず、なんとも収まりどころの悪い絶望だけが後に残るという性質の悪い余韻が見る者の体を重くします。この監督はそういう映画ばかり撮ってますが、中でも憂鬱度はこの作品がダントツだと思っているので今回取り上げてみました。

さて、少ないですが紙面の都合上これでおしまいです。思いつくままに書き連ねただけなので何の脈絡もないラインナップですが、ゆっくり選り抜く余裕はありませんでした。なぜならもう今日が〆切だからです。ギリギリでいつも生きています。
あと、絶対に観ておくべきと銘打ちましたが特にそういう必要はないです。映画というものは観るだけで語彙や感情を肥やしてくれる素晴らしい媒体ですが、それらは大概アウトプットされることなくひたすら自分の中に蓄えられて濃度を上げながら深まっていく類のものなので、吉と出ることもあれば凶と出ることもあるのです。本でも何でも同じですが、そういうふうに内に篭って自分を深めていくことばかりに誠心するというのは不健康極まりないのです。そうしているとなんでもかんでも経験し尽くした気分になってしまうのですが、そういう状況って無知であることと変わりないのでとても危険なんじゃないかなあと。まあそれがまさに私なわけですが。ともかく適度に俗世と折り合いをつけつつ一人の時間を楽しく過ごしたいものですね。